エアギターで腕が攣る

無題

10/27 9:32

「肩胛骨は翼のなごり」を読んだ。

自身の感じる憂鬱、身に巻き起こる艱難辛苦が世界にとってどこまでも無関係である=孤独であることのままならなさを丁寧に描きながら、それでも他者との交わりが、世界のままならなさを少しでもずつ揺り動かし、変えていくきっかけとなることをどこまでも肯定していく物語であった。素直にすごくいい作品だった。

主人公のマイケルは住み慣れた家を引っ越したことによる未来への漠然とした不安と、生まれて間もない妹の容態が安定していないことへの恐怖、両親が娘の刻々と変わる体調を気にかけることで精一杯になっているが故の抑えきれない寂しさ、それらの全てに苛まれている中で、引っ越した先の古ぼけたガレージで思いがけない存在との出会いや、引っ越し先の近くに住む不可思議な少女との関わりによって世界の見方を少しずつ変容させていき、それに伴って彼の世界も大きく動き始める。

冒頭で、主人公のマイケルがバスで学校に通学する際、バスの乗客に視線を向け、自分自身が彼らの生活の事情をただ見るだけでは一切知り得ないこと、また自分自身の生活の事情も周りから見られるだけでは知られないことを考える場面がある。孤独の本質を描写する良いシーンだな、と思った。

しかし当初無関係であった世界は、自ら世界を認識しようとする意思、自ら世界に関わっていこうとする意志によってようやく自身と接続される。思いがけない存在、不可思議な存在に向かって踏み出すマイケルの好奇心、善良さ、そして勇気がなければ彼の世界は彼に向かっては開かれなかっただろう。やがて無関係で冷えた世界は雪解けを迎え、物語が終盤で春を迎えるのと呼応するように、血の通ったものに姿を変える。最初は石のように冷たく、頑なな態度を崩さなかった思いがけない存在も、マイケルやミナの直向きな愛に触れ続け、やがて柔らかく心を開く。

ここまで好奇心、善良さ、勇気、、と主人公のマイケルがまるで聖人かのように書いたが、本編では他者の親切を受け止めきれずに孤独に塞ぎ込む一面や、後に沢山の経験を共にするミナと言い合いする際のいじっぱりな面、病院にいる妹を気にかける心の柔らかさ、不安を抑えきれず父親と言い合う際の刺々しさなど、とにかく人間くさい描写が沢山ある。それがたまらなくよかった。

これは主人公に限った話ではなく、父親との言い合いの場面での父親の取り乱した姿も胸を打った。人間誰しも、いつだって冷静でいられる訳もない。ただ取り乱した後に素直にそれを詫び、相手に改めて向き合えることができることが肝要である。言い合いの場面は父親とだけでなく、ミナや、学校の友人とも諍いがあるのだが、いずれの場面でもお互いが素直に相手に向き合うことを諦めない。そう容易く出来ることではない。だがそれでも目指さなければならない。とても身につまされる。

 

最後に特に印象に残った数節を引用する。

 

“「あたしたちは前進する覚悟をしなければならない。でもそれは、あたしたちが永久に存在するということを意味するわけではない」”

 

“愛はわれらを息づかせる幼な子、死を追い散らす幼な子”